不色トラス @philotrass

すべてに意味がないということを精密に分析しきらなければなりません。自然科学では、意味の捨象は記号の原始化のもとで行われました。同様に、わたしたちはもはや規範や価値が日常的な意味において完全に無意味だとよくわかっています。それをもっとも迷いなく述べる仕事だけが残されています。

観念的に、私が私自身を空虚だと信じてしまっている問題があります。この信念は、プリミティブな私と、空虚に構築された世界モデルにおける森羅万象のひとつとしての私の混同によります。そして、内面化された社会規範の中では、空虚な存在は世界に向かう主体としての権利の一切を失ってしまうのです。

思想は苦に随するようで、幾ヶ月前からすでに私は存在していないと思われるので、つまらない残滓の表層から記します。生とは精神ですが、精神からはなぜか物理すなわち神が見えています。主たる精神の側から偶然たる物理への働きかけが創作と呼ばれます。ゆえにこれこそが祝福の対象にほかなりません。

最も絶望的なのは、わたしを含めたほとんどの人が、結局は現実と折り合いをつけて生きているということです。理想は本性上反現実的で、希望とは理想と解釈の類似によるものですから、現実性の強まりは必然的に絶望を導きます。現実に希望を見出すといったとき、本当は、現実を非現実化しているのです。

特定の文脈での一般認識に反して、原理的には、現実の側にいることが倫理的であるはずです。自己はともかく、すべての他者は現実に属しているためです。非現実的本性との対立の現実側の解決策が法や包摂ですが、非現実の側の策は現実の無効化、すなわち倫理依存性からの脱却と廃棄、世界の空気化です。

現実による非現実の包摂作用とわたしたちの思考の徹底した非現実性の間の緊張があり、いずれにせよ、わたしたちは立脚するところのものをなんらか錯覚するようになります。救済には、非現実性概念の現実立脚性を知覚しつつなお現実に取り込まれない形態と、現実に完全に取り込まれきる形態があります。

波風を立てないという行動原理は、いくつかの認識の帰結のようです。第一に、倫理や正当性は相対化可能で、権利は実在ではなく人間の行動パターンに過ぎないこと。第二に、適応によって自己への責任の追及が著しい苦痛として訓練されていること。第三に、世界への誠実性が他者に誤って適用されること。

観察的にいうならば、意味は人生の大半において薄まるばかりなのですから、存在性の問題を棚に上げたとしても、先んじて時を超える選択はまったくあり得ます。世界の最大の残酷さは時間にあるでしょう。むしろ、春を経たわたしたちは、桜の木の美しさになにも捧げなくてよかったのでしょうか。

厖大な労力が懸けられた高濃度な対象は、産出の端緒が人間の中に存すると感じられたとき、一つの赦しとなります。外的な端緒への服従が投影あるいは非対象化された世界解釈にとって、内的解決と併せて考えられる段階が、外的な存在提示による救済です。一般性の規準の下で、解釈は解放されていきます。

ときにある種の接触が苛烈な気持ち悪さを呼ぶことがあります。内化された外との衝突か、理の及ばない脳の反応でしょうか。その類の接触は世界の真面目さではなく人間の不真面目さの影響であって、人間の経験的解釈の内外への影響の問題と似ています。そして、ある意味では最も芸術的でもあります。

理論と現実の問題は倫理的対立としても表れます。現実の対処のための理論の修正は、倫理の本質的意義の担保に不可避とされるかもしれません。しかし、もとより倫理や政治は人間の内部に存するのであって、科学が現実を絶対視するのと同様、倫理は理論を外在化して観測せねばならないとも思うのです。

世俗的な話として、現実の人間に近づくほど出力を重視する傾向にあります。複雑性でなく基礎的な内実を信じる立場からは、空洞な出力の一切から離れるため、入力を突き詰め、出力は自然性に任せるという方法は十分にあり得ます。彼らに言わせれば、わたしは裏切り者、臆病者なのかもしれません。

自己へのささやかな希望と世界への誤認が出力機構の壊死を幻視させます。たとえば現実における意味の実装、あるいはもっと悪く現実的変容、それらのからくりを、わたしたちは内実と認識してしまいます。監獄の中のまったく人間的な心の働きが幾度と評価を繰り返し、そうして全てが作られていきます。

わたしたちは、内実とは実際的かつ非精神的であると仮定しがちです。それは最も根本的な意味で正しいのですが、しかし、複雑な精神現象の厖大な相互関係が主となる場において、精神的態度は実質的に現実への影響をもちます。精神性の出力の過小評価は過度に自罰的な信念と不幸な習慣を生み出します。

自罰傾向のみんなで学をやろうねって、約束です。倫理とか責任とか罪とか罰とか、意味不明なパターンから逃げましょう。判定可能な最低基準の中で非負の利が約束されるどこかで、不安定な世界との接続を切るのです。世界へのアクセスを必要としない快楽を。あるいは技術による実現を。

近頃、世界の解釈を特定の図式に頼るばかりで、まさしく出力に誘引された内的な変化に違いないと考えてしまいます。しかし、この考えもまた同様の変化の帰結に思えるため、ここに連環の逆理が発生します。畢竟、メタ分析はオブジェクトレベルの反論にならないとして、統辞的に進むほかないのでしょう。

意味と形式、理想と現実、精神と物質、本質と実存、思考と表現、といった曖昧に対応する二項があり、世界や他者はいつも形式の側に見えます。階層の縦横という二つの意味における形式の優越性が認識されるとき、単なる意味の表出や存在の提示がそれ自体希望となり得るというわけです。

感覚の価値の帰結として、すべてを終わらせたいと願うのは自然に思えます。しかし、対象化によれば、この手の思索は脳内物質の影響にあり、普遍的たり得ないようです。自己の非絶対性を考慮に入れると、問題は途端に複雑になります。その困難な点は、不可逆性と退化した非存在状態の扱いにあります。

思考の記録は忘却への唯一の策ですが、フィードバックを免れません。出力に伴う表現の制約は入力に作用し、思考と表現は循環構造をとります。循環の安定点が学問であり、不安定点が芸術です。ここは新たな循環の始まりの地。消えたがりな思考が渦潮のなかで延命治療を受ける場所です。